タイ人の知り合いの方からプレゼントをもらった。どうやら下痢を頻繁に起こす虚弱体質の小生を気づかってくれたようである。それは健康補助食品のようなもので、タイ人の間では『チキンエッセンス』として知られている。

スーパーやコンビニに普通に売られているものなので、何かしら見たことがあるが、いままで挑戦したことがなかった。いや、挑戦する気も起きなかったというのが正直なところだろう。所詮、『鶏肉のエッセンス』である。「そんなもの食べりゃあいいじゃないか」と思ってしまう。
これと似たパッケージで、『ツバメの巣』というのもあるが、あれは何度か食べたことがある。甘いゼリーのようなもので食べやすく、食べやすいからか知らないが、特にその滋養効果が感じられなかった。
で『チキンエッセンス』、ご縁のない食品だったが、もらったからには食べないわけにはいかない。箱を開封してビンを取り出し、ビンの中に入っている黒い液体をつくづくと見つめると、なんだか薄気味悪さを感じる。黒い液体はあくまでもエッセンスであって、スープではないようである。じゃあ、エッセンスって何なんだ?
「イヤだなあ」
これが見た印象である。

蓋を開封しようとしたが、頑丈に閉じられていて開かなかった。こういうところがタイの製品らしい。日本の製品だったらこういうところは細かい配慮がされていて、簡単に開くようにできているのに。
サバイバルナイフをビンの隙間に押入れ、格闘すること数分。蓋から「プシュー」と音がして、少し開きかけたのだが、それでも蓋全体が開かない。そんな格闘を続けているうちに、蓋の隙間から黒い液体が漏れ出てきた。
「ウオオ!」
漏れ出た液体が手につき、小生はしかめっ面になった。
なぜしかめっ面になったかというと、その臭いである。
「クサい!」
なんとも嫌な臭い。
悪夢に出てきそうな臭いである。人間が喉に通せるようなものではない。速攻で手を洗った。それでも臭いの痕跡が残っていたから、石鹸で洗った。
「ううん、どうしよう」
蓋が半開きのまま考えた。手についただけでこれだけ不快感を催すものを飲めるとは思えない。このまま捨てようかとも考えたが、一応味見だけしないことには「くれた人」に悪い気がする。
蓋の間に、またサバイバルナイフを差し込んで格闘し、ようやく蓋が開いた。
「ああ、開いたか・・・・」
開いても心が重かった。この臭いである。この臭いをどう表現すればいいのだろう。
嗅いだことがない臭いかと問われれば、どこかで嗅いだことがある気がする、と答えるだろうが、どこで嗅いだ臭いか思い出せない。とにかく嫌な悪臭である。この臭いを枕に沁みこませられたら、罰ゲームを越えて、拷問になるだろう。冗談では済まされない。
臭いが手についただけで右往左往するような液体、まったく飲める気がしなかったが、とりあえず、スプーンにちょっと移して、口に含んでみた。
「ウエエエ」
とにかく臭いがすごくてダメである。これを飲み込んでゲップをしたら、何度でも悪夢が蘇ってくる。
小生は決して食べ物を粗末にするほうではない。いや、腐っていようが、古くなろうが、残さず食べる方である。食わず嫌いなものは特になく、何でも食べてみるほうである。もっと言えば、どんなにマズイ漢方薬も平気で飲み干すことができる。そんな小生が、この「チキンエキス」だけは口にすることができなかった。
完敗である。
「南無三・・・・」
洗面台にジャーっと捨てた。臭いの痕跡が残らないように、すぐに洗面台を水で洗い流した。
ある意味新鮮な体験だった。手も足も出ないとはこのことである。こんなものをタイ人は飲めるのであろうか。これだけ市場に出回っているということは、やはり普通に飲むのであろう。悪趣味というより、スゴイ。
あらゆる世界の珍味を食べたい好事家の人は是非試してみて欲しい。これを飲める人はウ○コでも食べれるだろう。